« 忙しい……。 | トップページ | たたかうことの第一歩 »

2006/07/19

雨の降る霞が関駅

 作家・中野重治さんの詩で「雨の降る品川駅」という傑作があるんですけど、今日のような雨の降る朝の宣伝行動のとき、僕は、どうしても思い出してしまう。

 今朝は、財務省と外務相の前で機関紙「国公いっぱん」第20号を配布しました。雨に濡れるビラ、差し出すビラの、それを受けとる側の職員は鞄(かばん)と傘で手がふさがっている。当然、いつもより受け取りがよくない。「国公一般」と染め抜かれた黄緑の旗は、濡れそぼって力なく項垂(うなだ)れている。
 僕らは、通りを行く職員みんなから、悲壮感漂う異集団のように見られているのだろうか……、そんな心配がむくむくともたげてくる。


   雨の降る品川駅

                   中野重治


     辛よ さようなら
     金よ さようなら
     君らは雨の降る品川駅から乗車する

     李よ さようなら
     も一人の李よ さようなら
     君らは君らの父母(ちちはは)の国にかえる

     君らの国の川はさむい冬に凍る
     君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る

     海は夕ぐれのなかに海鳴りの声をたかめる
     鳩は雨にぬれて車庫の屋根からまいおりる
     君らは雨にぬれて君らを追う日本天皇を思い出す
     君らは雨にぬれて 髭 眼鏡 猫背の彼を思い出す

     ふりしぶく雨のなかに緑のシグナルはあがる
     ふりしぶく雨のなかに君らの瞳はとがる
     雨は敷石にそそぎ暗い海面におちかかる
     雨は君らの熱い頬にきえる

     君らのくろい影は改札口をよぎる
     君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがえる

     シグナルは色をかえる
     君らは乗りこむ

     君らは出発する
     君らは去る

     さようなら 辛
     さようなら 金
     さようなら 李
     さようなら  女の李

     行ってあのかたい 厚い なめらかな氷をたたきわれ
     ながく堰かれていた水をしてほとばらしめよ
     日本プロレタリアートのうしろ盾まえ盾
     さようなら
     報復の歓喜に泣きわらう日まで


 中野重治さんの文学の本質は、圧倒的な抒情(じょじょう)だと思っている。正しすぎる抒情に圧倒されて、人は中野重治さんに掴(つか)まってしまう。
 しかも彼の抒情は、美しい。そして、切なく悲しい。

 僕は、切なく悲しい、で終わってはいけないと思う。反論を許さぬような圧倒的な「正しい」だけでもいけないと思う。
 
 濡れたビラの、僕らが差し出すそれを、外務省の職員が「ご苦労さま」と声をかけて受けとってくれる。無表情のように見えた非常勤職員が、パッと表情を明るくして「どうも」と言って受けとってくれるのを間近に見る。この雨に負けて、今朝のビラまき宣伝を中止していたのなら、この関係性はなかったはずだと思ったりする。

 ビラの見出しには、次の言葉が躍(おど)っていた。
「非常勤職員が実態を訴える 『少ない年休。せめて病休を有給に』」
「非常勤職員の待遇を改善せよ 国公労連・国公一般が人事院・総務省と交渉」

 雨よ、降れ。そして止んでくれ、と思った。

|

« 忙しい……。 | トップページ | たたかうことの第一歩 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 雨の降る霞が関駅:

« 忙しい……。 | トップページ | たたかうことの第一歩 »