チョコカステラの味
年度末、国公一般は、数としては少ないけれど非常勤職員らの「解雇」を阻止し、雇用を守った。「任用」が適用される非常勤国家公務員、労働基準法や派遣法が適用される派遣職員、そして請負職員……三者三様の労働条件のもとでの雇用を守ることは容易ではなかったけれど、粘り強い交渉力を最大限に発揮してきたのだ。雇用を守ったときは、まさにワールドカップに出場しているチームのキーパーのような喜びを感じたし、他方、クビ切りを許してしまったり、労働条件の大幅な引き下げを許してしまったケースでは、本当にガックリと肩を落とした。
そんなこんなで今日、国公一般がかかわった非常勤職員から手紙が舞い込んだ。
年度末の3月のある日、信じられない労働条件の引き下げを一方的に宣告され、彼女は国公一般に電話をかけてきたのだった。国立情報学研究所の「雇い止め」事件の判決をネットで読んで、「非常勤は道具じゃない!!」と勇気づけられたと言い、「こんなの、絶対に納得できない」と怒るのだった。
この案件は、(僕が別の労働相談で動いていたので)書記長が対応したのだが、彼女と職場との関係やその周辺の聞き取りなどきめ細かな対応を続けているのがわかった。時間はどんどんなくなる、交渉日をどうするか、誰が出ていくか。しかし、一番大切なことは、「あなたが組合に入って交渉しなければ、解決しない」ということに尽きる。
彼女の手紙は、「みなさまのお陰でどうにか元気が戻ってきています」と書き出され、「みなさまに出会うことができなければ、いつまでも私は自分自身を取り戻せずにいたと思います」とあった。
非常勤職員の思いが惻々(そくそく)として胸を打つ手紙だった。
「人間は人間として生きていてもいいんだ、という日本国憲法の方が、国家公務員法よりもまさっていると思います。いつか私もみなさまのように、国家公務員法によって差別され苦しめられている非常勤職員……、悲しみから立ち直ることに時間がかかっている仲間のためにお役に立てるときまで勉強を始めたいと思います」
書記長が大きな包みを出してきた。
「彼女が手紙と一緒に送ってきたんだ」
その包みは、チョコレートカステラだった。僕は食べることはできないと思った。だって、結局、国公一般の懸命な交渉むなしく当局の強引な提案を撤回させることができず、彼女は大幅な賃下げを受け入れざるを得なかったからだ。国家公務員の職場に労働基準法が通じないという大きな「壁」を改めて感じた事案だった。
書記長は、包み紙を破りながら言った。
「……彼女が立ち上がることで、どれだけの人が励まされ、解決のために動いただろうか。たとえ良い結果を勝ち取れなかったとしても、少なくとも彼女は国公一般という労働組合と出会い、学び、そして働き続けるんだよ。俺たちにとって、それ以上の成果はないじゃないか」
げんきんな僕は、その言葉を聞いて切り分けられたカステラの二切れを口に入れた(笑)。こんな配慮までしてくれた彼女の事を思い出して、少し涙味というか、ほろ苦い感じがした。
美空ひばりが歌っていますが、ホント、人間って素晴らしいですね……。
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