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2006/02/27

働く者の尊厳あるいはプライド

 たったいま、派遣先会社との合意書に印鑑を打ってきました。
 
 この事案は、昨年暮れ、霞が関のある省庁で働いていた派遣職員の女性が、派遣先理由による解雇に遭(あ)い、その撤回を求めてたたかっていたもの。派遣元会社との交渉、さらには派遣先会社との懇談(労使関係がないので団体交渉はできないため「懇談」)を続けるなかで、①解雇の撤回、②解決金の支払い、③謝罪などを勝ち取った。形式的には、200%の勝利解決だと言っていい。

 最初の労働相談で、彼女から事情を聞いたとき、僕が直感で許せないと思ったのは、①派遣先(○○省からの業務請負会社)は、派遣契約で定められた業務外の仕事を彼女に強制し、②指揮命令者は何ら労働環境の改善に動かず、③さらに彼女の人格をおとしめるような言動が恒常的になされていたということだった。
 彼女が会社とたたかう決意をしたのは、働く者としての尊厳あるいはプライドを傷つけられたことに我慢が出来なかったから。僕は、彼女に職場で起きたすべての事柄をメモに書き出すように言い、それをもとにして要求書を起案し、まずは派遣元会社に突きつけた。さらに、これまで国公一般の経験にはなかった、派遣先会社の責任を問う懇談の申し入れを行った。
 友人の弁護士に聞いたところ、厚生労働省の「告示」指針は派遣先が講ずべき措置を規定しているものの、労働組合が派遣先責任まで厳しく追及するというケースは、極めて稀(まれ)なんだと。しかし、国公一般との懇談の結果、派遣先会社はただちに組合の要求書にもとづいて調査を開始し、数千人に上る派遣社員との契約内容と業務の洗い直し、管理責任者の適正を再検討する面接の実施、不適正な職員の人事異動を行ったということが明らかになった。常務取締役の方は、組合員の彼女に深く謝罪した後、「組合からの申し入れで、我に返った思いだ。本当に返す言葉もありません。これは氷山の一角という認識をもって、今後の業務遂行に活かしていきたい」とのべた。そして、彼女の人格を傷つけた上司は、「あってはならないことをしました。申し訳ありませんでした」と頭を下げたのだった。

 組合員の彼女は、大粒の涙をポロポロとこぼしていました。悔しい思いでいっぱいなのだろう、相手が謝ってもなお、彼女は、用意された合意書3通への押印を打とうとしないのだった。
「わたしが組合に入って言わなかったら、あなたがたは、いまでものうのうのと不当労働行為を重ねていたはずです。わたしは、何度も何度も上司に助けを求めたのです。泣きながら助けを求めても助けてくれなった。嘘もつかれました。……(そんなふうに謝られても)信用できません」
 僕は、ほとんど見かねて、「……労働組合がある意義はね、組合が申し入れる団体交渉というテーブルを設定して初めて会社の偉いさんと働く者とが対等で話し合うことが出来ること、そこであなたは言いたいことを言えた。そして、一番大切なこと、会社は解雇を撤回し、労働環境の改善に全力をあげている事実だよ。あなたが、これ以上、会社の幹部が許せないと言い張って吊し上げたとしても、あなたの傷は癒(いや)されないはず。傷を負わせた相手を許すこと、そしてあなたの苦しみをまだ見ぬ後輩組合員たちのための優しさに変えてください。あなたがたった一人でも組合と一緒になって声を上げたことが、大きな会社を動かしたのですから」と彼女に言いました。しばらくして、彼女は涙を拭(ふ)きながら、「がぶさんが言うなら」と呟き、合意書にサインと判子を押しました。僕も胸が熱くなって泣けてきそうでした。

 僕は、一年半の組合活動のなかで多くの労働紛争にとりくみ、何回も合意書に判子を打ってきましたが、そのたびに働く者を人間として見ていない、ただのモノ=人材としてしか見ていない会社側に怒りを表明してきた。しかし、今回ほど彼女の辛(つら)い思いが伝わってきたケースはなかった。しかし、泣き寝入りをしないで派遣先会社まで追いつめ・改善させた彼女のたたかいは、今後の国公一般のたたかい方をバラエティーに富むものにしたと思う。これからは、容赦なく、労使関係のない派遣先に対してもどんどん攻めていくつもりです。 

 霞が関で働く非常勤職員や派遣職員は、お昼時、窒息しそうな職場フロアから離れて(笑)、別の場所で食事をとるのが普通なのだが、彼女は、昨年の春ごろ、そこでナンパのように「困ったことがあったら連絡してね♥」と言いながら非常勤職員たちに名刺を渡している僕に出会い、その名刺をずっと持っていたというのだが、当然、どうしようもない人間のクズである僕は覚えちゃいないのだった(笑)。
 しかし、そんなささやかな出会いが、こんなにも大きなとりくみへと発展していった、その原動力となった働く者の尊厳あるいはプライドの素晴らしさを改めて感じさせる事案でした。

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