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2005/08/31

憲法と国家公務員 その1

 僕が護憲論者となった理由はいろいろあるけれど、もっとも根底にあるものは、少年の頃に中沢啓治『はだしのゲン』に出会い、高校生になって井伏鱒二『黒い雨』を読んだことかもしれない。どちらもアメリカが広島に落とした原爆が何をもたらしたかを描いた漫画と文学で、とにかく「戦争はイカンな~」「戦争は悲しむ人をいっぱいつくるんだな~」と強く印象づけられた記憶がある。このとき、たぶん僕は、素朴平和主義者となったと思う(笑)。
 だから、名古屋大学の法学部で憲法を学んだとき、「日本と世界の多大な犠牲を払った上に、戦後憲法の平和条項が生まれた」「徹底的な、不戦の誓いとしての日本国憲法」という教えが、すんなり理解できたのかもしれない(友だちのなかには、攻められたら何も出来ない「丸腰憲法」などと批判する人もいたけれど…)。
 名古屋大学では、僕が入学する前に先輩たちが「平和憲章」という規範を全構成員自治のもとで確立させており、戦争にかかわる研究は拒否するというラディカルな精神が生きていた。だから、当時の僕は、「戦後生まれのわれわれには、戦争責任こそないけれど、日本国憲法下において、未来永劫、戦争を起こさないという『未来責任』がある」という主旨の論文を書き、大学生協主催の懸賞論文コンクールで第1席をもらうことができたのだ(副賞は沖縄旅行で、この目で米軍基地なるものを初めて見させてもらった)。
 とにかく、僕にとっての護憲を支えるものは、「戦争は嫌だ」という素朴な感性と自分の五感で捉えた経験なのだ。蛇足だが、他人が「従軍慰安婦などなかった」と言っても、僕にとっては、韓国で会ってきた「慰安婦」ハルモニの実体験の方が勝るのだ。その逆に、「戦争はだめ」と口先だけで言う若者より、悲惨な戦争体験をくぐった元軍人から聞いた「殺さねば、自分が殺された」という言葉の方が、護憲を支える真実だと思うのだ。

 卒業する時点で、弁護士になろうか公務員になろうか、民間に行こうかなどと迷ったのだが、結局、10年経ったいま、こんな仕事をしているわけだが(笑)、僕の護憲思想は、ますます強力なものになりつつある。とりわけ、憲法と国家公務員というテーマは、本当に奥が深いと感じている。
 本来、法律屋である国家公務員は、基本法としての日本国憲法を徹底して学ばねばならない立場にあるはずなのに、経験的に言わせてもらうと、ほとんど学んでいないのではないか? ある日、別の省庁から40代キャリアがやってきて「いまから、法律つくるぞ~」という安易な号令のもと、約1カ月間の不眠不休の突貫工事が始まり、○○法案が仕上げられる……という霞が関において、自分がつくっている法律が日本国憲法の精神と合致しているかどうかということは、ほとんど検討されない。
 そもそも小泉首相が、「憲法を改正する」と公言し、すべてをワンフレーズで単純化し、裁断する状況のもとで、改めて日本国憲法の条文に立ち返ってみるとか、60年前に終わった戦争の実相を検討してみるとか、果ては自分の仕事との関わりを考えてみるとかいう面倒くさい作業は、ただでさえ忙しい国家公務員には、ほとんどできないことなのだ。
 
 さて、これから本論。
 日本国憲法の条文のなかで、極めて異彩を放っているものがあり、それは第10章の「最高法規」にある第99条なのだ。

 第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、
      この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 初めて憲法を通読したとき、僕は「なんだ、これは?」と思った。
「公務員は、アプリオリ(先天的)に無条件に、この憲法を守れってのか?」
 この問いが、戦前・戦中の国家公務員(官吏)制度について考える旅の第一歩となったのだ。

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コメント

 中学校3年生の公民の授業。生徒に「国民主権」を定めた日本国憲法なのに、どうして第1条に天皇のことが書いてあるの?」と尋ねたことがあります。私は大日本国憲法を改正したので、条文の配列の問題としか考えていませんでした。ところが、ある生徒は「1条が根本的に変わったことを国民に知らせたかった」と述べたのです。
 私の考えの何と浅はかだったか、と考えさせられた授業でした。
 人権の規定の配列も人間の成長と重ね合っていますね。これも昨年本で読んで気づかされました。24条で婚姻、25条は生存権、26条は教育権、27条は勤労権、28条は労働基本権…。こんな観点で授業いつか授業をやってみたいと思います。

投稿: hi-de | 2005/09/02 午前 10時46分

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