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2005/07/13

ソウル三話 心の奥にあるものは 前編

 ビルの8階にある会議室からは、薄黄色い陽光にまみれたガスに煙るソウルの街が一望でき、僕は、とても美しいと思った。しかし、入室した金永佶(キン・ヨンギル)委員長の冒頭あいさつが、そんな生易しい感傷を吹き飛ばしてしまった。
「昨年のストライキ弾圧事件で逮捕されて、実は10日前に出てきたばかりなんですよ。実は、われわれの組合は結成されて活動しているものの、現在も合法的な存在として認められていない。首を切られた仲間の復職と労組の法的な枠組みづくりが大きな課題なんですよ」
 僕は、この人の首は飛んでいるのだ、と思う(02年のストライキで当局から「懲戒解雇」を受けているのだった…)。
 金委員長は、「女性労働者が活発に仕事し活動できるようにするため、規約の改正で役員の30%を女性にしなければならないなどの組合の制度を検討している」とものべた。…なんと穏やかな話し方をする人なのだろう。

 あいさつの後、別の仕事に向かった金委員長に代わって、女性委員会の李燕淑(イ・ビョンジン)委員長が説明に立った。通訳は、日本の在韓企業で勤め、民間労組にいるという鈴木さんだった。
「いま韓国でも新自由主義の思想が広がり、公務員リストラが進められています。06年までに20%の公務員を非常勤職員にするという政策が出ており、『公務は生涯に渡って働き続けられる職場』とは言えなくなりつつあります。下級職の若い女性公務員がターゲットになるでしょう」
 僕は、「日本の国家公務員も五年間で10%純減の定員削減、賃下げが進められてる」と伝え、霞が関で働く非常勤職員のことを思い出した。
「……組合員の組織化は難しいですよ。そうは言っても公務の職場は、まだ、安定していて差別がないと思われている。だから、『組合員になると昇進に関わる』なんていうムードもできる。『女性だから』とか『組合員だから』と言われない職場づくりが必要です。『女性が輝かなければ、(女性)公務員は輝かない』を合言葉にしたい」
 李委員長は、「そのためには、男性組合員、幹部の考えを変えていくことが必要だわ。つまり、ここにいる女性幹部が夫を変えることよ」と笑った。このセリフには、伴侶のいない僕も笑った。
 その他、民間を含めた非正規労働者の増大の問題や韓国では週休二日制の導入とともに来年から生理休暇がなくなるという問題、戸主制度の廃止の問題などを語り合った。
 
 しかし、李委員長の左右に並ぶ役員は、みんな解雇されているという事実に心が痛む。なぜ、彼らは、そこまで労働基本権を得ることにこだわり、たたかうのか?

 ネットで検索するとハンギョレ新聞に次のようなコラムが載っていた。
 
 「今や弾圧政権なのか」
 盧武鉉政権が公務員労組弾圧に取りかかった。 改革の意志も能力も不足した政権が、 社会的な弱者に公権力を振り回す姿からは、怒りより先に憐憫さえ感じられる。米国に首根っこを捕まれ、朝・中・東とハンナラ党に振り回されて、これまでにしたことはイラクに派兵して「企業しやすい国」のために力を注いだこと以外、見るべきものがほとんどない政権が、ついに行政首都移転について憲法裁判所裁判官から頬を殴られ、その鬱憤晴らしを公務員労働者にしている形である。
 …公務員労組に対する盧武鉉政権の弾圧は、したがってきちんと改革しない彼らが改革の遅れの負担をひたすら公務員労組に転嫁しているのだ。冷たい風が吹き始める時に、全員解雇を語る彼らのずうずうしさは今後どこまで行くのだろうか?
 …国民も認識を変えなければならない。守旧勢力と国家貴族がこのように厚かましくなれるのは、市民意識と階級意識の不在のためだ。長い間、国家貴族の下手人として不正腐敗のおこぼれを食べ、国民からも軽蔑されてきた中下位職の公務員たちが、今や人格的な存在として公職社会の不正腐敗を清算する内部監視する人になり、国家貴族の国家の右手に対する均衡者としてのプライドを持った国家の左手になれるように、彼らの基本権争奪闘争に連帯しなければならない。

 どこかの国とよく似ているな~と思いつつ、僕は、公務員労組の結成宣言文を読んだのだった。

 ああ、この瞬間をどれほど待ち望んだことだろう。
 今日、私たちは長く暗いトンネルを抜けて、明るい世の中へ第一歩を踏み出す厳粛な瞬間を迎えた。
 
 振り返ってみれば、私たち公務員は過去50年以上、権力と資本にされるがままにさせられ、差し出されただけに従順に受け取ってきた。
 国民からは政権の手先として、不正腐敗の張本人と後ろ指を指され、
 権力からは政権維持の道具として利用され続けてきた。
 政権が変わるときは、いつもスケープゴートにされ、糾弾の矢面に立たされてきた。

 しかし、私たちはもうこれ以上、屈従の歴史にとどまっていない。

 今日、ありとあらゆる妨害と弾圧にもかかわらず、厳粛にスタートする私たち公務員労組は、過去の軍事政権時代に奪われた労働者という名前を取り戻し、民主的な労働運動に堂々と参加し、歴史の発展に寄与するその一歩を踏み出すのだ。

 さあ、90万人の公務員労働者の名前をもって宣言する。

 世の中を変え、国を正す公務員労働組合が結成されたことを…。

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