奇跡的なパレード
奇跡とはこのことか? 朝からしとしと降っていた雨が、お昼の霞が関一周パレードのときだけ止んだのだ。前日から作っていたプラカードも横断幕も水ににじむことなく大きな力を発揮した。
霞が関で働く職員たちが空を眺めながら、ぞくぞくと日比谷公園の霞門に集まった、その数220人。小集会が始まる。経産省、農水省、厚生労働省の職員が次々にマイクを握って、それぞれの職場の実態を告発するのだった。
「この春入省した新採は、深夜におよぶ連日の業務と休日出勤に参って、一週間たたないうちに『辞める!』と宣言しました。すると秘書課の連中が血相を変えてやってきて、辞めるなと説得。仕方なく彼を閑職へ異動させたんですが、彼の同期の仲間は、どんどん辞めていっている。組合は、霞が関の異常な現実を本当に変えていかなくてはならないと思います」
「霞が関の働き方が変われば、日本全体が変わるはずです!」
厚労省 の合同庁舎で働く若い女性2人が国公労連の宣伝カーに乗り込んで、パレードを先導するスポットを読んでくれる。ジェンダー差別と言われようと、スポットを読むのは、男性より女性の方がいい(笑)。パレードに参加しない職員たちが、歩道で手を振ってくれたり、あいさつをしてくれたりする。誘導の警察官が、僕のところにコソッと寄ってきて「実は、国家公務員の賃下げには参っています。われわれには主張できないから、組合のみなさん、どんどんやってください」と呟く(笑)。220人を多いと見るか少ないと見るかそれぞれだけど、霞が関ウォッチングをした者からすると、ここに集まったのは氷山の一角に過ぎないと思いたい。
霞門から桜田通りへ。女性が読み上げるスポットに力が入る。
「桜田通りにならぶ総務省、外務省、農林水産省、国土交通省、財務省、経済産業省は、翌日まで灯りが消えることのない『不夜城』と呼ばれています。今日、私たちは、霞が関で働く国家公務員の仲間に、『今日こそ定時で帰りましょう』と呼びかけるものです」
お昼を食べに行く仲間たちが、220人のパレードに注目するのがわかる。プラカードには、「家族そろって夕食を!」とか「デートする時間がほしい」とか「実効ある超勤規制を!」の文字が躍る。
スポットの声がちょっと涙声のように感じるのは、僕の思い違いだろうか?
「組合には、霞が関で働く仲間から悲鳴にも似た声が寄せられています。『国土交通省勤務の夫は、毎日深夜タクシーで帰宅し、翌朝9時半には当然のように出勤します。いま、夫に支払われている残業代が30時間ってどういうことでしょうか。まったくあり得ない話で、どこに訴えたらいいのやら途方に暮れる日々です。働くにも人間には限界があります』『うちの夫は、霞ヶ関の不夜城で人格が崩壊してしまいました。1カ月ほど休んで体を慣らしています。これから職場に戻ると再び病気になるのではないかと心配です』『想像を絶する長時間勤務をなんとかしてほしい。せめて野球中継が終わるころに帰ることはできないのでしょうか。自殺する職員の気持ちがわかります』『有給休暇が年に1、2日しかとれない。このままではおかしくなってしまう』『どうか夫をその日のうちに帰宅させてください。毎日子どもと二人きり、育児を夫婦で楽しむというのは欲張りなことでしょうか? どうか助けてください』…」
昨日の夜、僕は、このスポット原稿を苦しみながら書いた。そのときに考えていたのは、生の声をたくさん紹介しようということだった。だから、霞が関ウォッチングに寄せられたコメントを挿入しようと思った。これまで労働相談に来てくれた仲間たちの声がつづられたノートから抜き出そうと思った。組合に寄せられた家族のみなさんの声を代弁したいと思った。このリアリズムを政府と当局にぶつけたいと痛切に願ったのだ。
パレードは、銀行や大手メーカーなどでひしめく虎ノ門から西新橋へ向かう。民間のサラリーマンのみなさんがびっくりしたような顔をしてこちらを見ている。
「今月、人事院は、自殺者の多い国家公務員の現状を改善するため、自殺防止のマニュアルを初めてまとめました。国家公務員の自殺者は03年度で134人で、97年以来、高い水準が続いています。死因別でも、がんに次いで、自殺は第2位という高さです。精神障害などで長期に休んでいる職員が、全国で6600人もいることをご存知でしょうか」
「いま、私たちの職場では、深夜におよぶ長時間・過密労働が大きな問題となっています。こうした異常な働き方によって、国家公務員の心と体がむしばまれ、病休者や早期退職者が増えていると考えられます。『このままでは、国民のために働くことができなくなる』。こんな危機感を持って、今日、私たちは、霞が関をパレードしています」
たかだか25分間のパレードだった。日比谷公園の西幸門へ着いたとき、もやもやしていた気持ちが晴れるのがわかった。小さな、本当に小さな取り組みに過ぎないけれど、こうやって僕らの正論が当局を動かし、制度へと結実していくのだと思いたい。パレードに参加した仲間たちは、お互いを慰労しながら再び戦場へ。
「みなさん、ご苦労さまでした!!」
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
悪貨は良貨を駆逐する。私のような民間人は公務員の人々に人格、個人差など無いものと考えてしまいます。何故かどうしてか公務員は非効率的な集団であるという前提ができあがりこの偏見が固定化されつつあります。
しかしこのBlogのこの話を考えると改めて考える必要があるのではないかと、ふと思いました。
投稿: lockhope | 2005/06/22 午後 10時40分
さきほどY-Hospiでお会いしたSMZです。元気そうでなにより。スポットにあらわれた公務職員の実態に驚くと同時に、原稿を書かれた苦労に頭が下がります。体に気をつけてがんばってね~
投稿: SMZ | 2005/06/23 午後 03時44分